高周波誘電加熱の応用例
7-2. 熱可塑性樹脂の溶着(高周波ウエルダー)

下記の(表7-2-3)は代表的なプラスチックの種類と物理定数を示したものですが、これもあくまでも1つの目安です。

表7-2-3/プラスチックの種類と物理定数

樹脂名 比重 比熱
cal/g℃
熱伝導率 熱変形温度
耐電圧
KV/mm
誘電率 ε 誘電体力率 tanδ
60HZ 10KHZ 1MHZ 60HZ 10KHZ 1MHZ
硬質塩化ビニール 1.34~
1.45
0.2~
0.28
3.0~
7.0
60~
85
25~
30
3.4~
3.6
3.0~
3.3
2.8~
3.0
0.012~
0.02
0.009~
0.017
0.006~
0.04
軟質塩化ビニール 1.16~
1.30
0.3~
0.5
3.0~
4.0
- 30~
34
5.0~
6.0
4.0~
5.0
3.5~
4.5
0.1~
0.15
0.09~
0.16
0.09~
0.10
塩化ビニリデン 1.65~
1.72
0.32 3.0 54~
66
12 4.5~
6.0
3.5~
5.0
3.0~
4.0
0.03~
0.15
0.06~
0.075
0.05~
0.08
ポリエチレン 0.92~
0.94
0.55 7.0~
8.0
41~
49
16 2.3 2.3 2.3 <0.0005 <0.0005 <0.0005
ポリプロピレン 0.90~
0.91
0.46 3.3 100~
110
30 - - 2.0~
2.1
- - 0.0002~
0.0003
ナイロン
(ポリアミド)
1.14 0.40 5.8 182 13 5~
14.0
4.9~
10
4.0~
4.7
0.06~
0.10
0.06~
0.11
0.04~
0.13
ポリウレタン 1.20~
1.21
- - 60 - 3.7~
4.2
3.2~
3.4
3.5~
3.9
0.01~
0.02
0.01~
0.02
0.02~
0.04
デルリン
(ポリアセタール)
1.425 0.35 5.5 170 18 - 3.7 3.7 - 0.004 0.004
ポリカーボネイト 1.2 0.30 4.6 138~
143
16 3.17 3.02 2.96 0.0009 0.0011 0.010
ポリ四弗化エチレン 2.1~
2.3
0.25 6.0 132 17 2.0 2.0 2.0 <0.0005 <0.0005 <0.0005
ポリスチロール 1.04~
1.07
0.32 2.4~
3.3
71~
99
16~
24
2.45~
2.65
2.4~
2.65
2.4~
2.65
0.0001~
0.0003
0.0001~
0.0003
0.0001~
0.0003
ポリエステル 1.0~
1.46
- 4.0 60~
204
15~
20
3.0~
4.36
2.8~
5.2
2.8~
4.1
0.003~
0.028
0.005~
0.025
0.006~
0.026
セルロースアセテート 1.23~
1.34
0.3~
0.42
4.0~
8.0
45~
95
10~
14
3.0~
4.36
3.5~
7.0
3.2~
7.0
0.01~
0.05
0.01~
0.06
0.01~
0.10
ベークライト
(フェノール)
1.25~
1.30
0.38~
0.42
3.0~
6.0
115~
126
10~
14
5~
6.2
4.5~
6.0
4.5~
5.0
0.06~
0.10
0.03~
0.08
0.015~
0.03

樹脂の種類や可塑剤の種類・量の違いによる損失係数の違い

被加熱物の比重をSとし、比熱をCとすれば、この材料をΔT℃だけ上昇させる高周波電源に要求される出力Wは

W=4.186×S×C×ΔT(ワット) です。
これで1cm3の材料を1秒間にΔT℃昇温させる電力が求められます。
周波数とε・tanδの関係をみると電極間電圧Eは通常コロナ放電開始の電圧30kV/cmに対して10kV/cm程度が使用されるので、この値を用いると塩化ビニールにて、
比重S=1.5、比熱C=0.25、ΔT=150℃、ε・tanδ=0.6より

W=4.186×1.5×0.25×150=235(ワット) となります。

これで得られた出力をP148の式のPに代入し周波数f を求めると

同様の計算をポリエチレンにておこなうと、
比重S=0.92、比熱C=0.55、ΔT=150℃、ε・tanδ=0.001より

W=4.186×0.92×0.55×150=317.7(ワット)

よって周波数f は


となります。つまり、塩化ビニールを誘電加熱しようとすると7MHz以上であれば可能ですが、ポリエチレンでは理論上5700MHzという非常に高い周波数が必要となり、現行の最大周波数40MHzではポリエチレンの誘電加熱は不可能ということになります。マイクロ波で考慮しても周波数は2450MHzなので不可能です。電子レンジの加熱用容器はポリエチレン製が採用されているのは、このような理由によります。

このことから、ε・tanδ、比重、比熱が塩化ビニールに近い樹脂は誘電加熱が可能であると考えることができますが、樹脂の溶融温度と熱特性により加熱効率が低くなる場合があり、検討時の注意が必要です。