高周波誘電加熱の応用例
高周波誘電加熱による繊維の乾燥

高周波誘電加熱の繊維工業における利用は古く、一般的な熱風乾燥に比べて処理時間の短縮や乾燥後の風合いが良いことより、英国やイタリアにおいては1960年頃より糸や布の乾燥に使用されてきました。現在においても中国、インドなどの繊維工業国を中心に染色、洗浄、パッディング(padding:ローラで絞り処理液を含ませる処理)、乾湿紡糸(wet spinning)、硬化(vulcanising)、フェルティング(felting)、湿式樹脂含浸(impregnating)、コーティングなどの湿式加工を行った後の繊維や不織布の乾燥に、誘電加熱を使った乾燥が活発に利用されています。

誘電加熱を利用した乾燥機は、減圧バッチ式と常圧連続式の2種類が実用化されています。減圧・バッチ式乾燥は、減圧容器内に設けられた対向する上下電極間に繊維を入れ、沸点を40-50℃に下げた状態で誘電加熱して乾燥します。低温乾燥できることより風合いが良いことが特長ですが、バッチ処理のために処理量が限られます。一方、常圧連続乾燥は、ネットコンベア上の繊維を上下電極間に連続搬送しながら、低湿度の熱風を併用して連続的に乾燥処理します。乾燥速度が速く連続処理できるために大量処理に向いており、現在はこの高周波誘電加熱を使った常圧連続乾燥が主流となっています。

下図は、熱風併用型の常圧連続乾燥機の概略図です。被乾燥物は、綛(かせ)と呼ばれる糸の束、或いはチーズと呼ばれる円筒状に巻いた巻糸体として乾燥処理されることが多いです。これらの綛やチーズは、通気性の良いネット状のコンベアベルトの上に整列され乾燥機に連続投入されます。コンベアの搬送速度は、初期含水率や仕上がり含水率により様々ですが、0.3m/分から3m/分程度です。乾燥部には、上下にコンベアベルトを挟んで対抗した1組の電極板が配置されています。使用される周波数は、27.12MHzであり、40.68MHzが使われることもあります。発振器の出力は、1台当り40kW~80kWであり、1ラインに1台の発振器が使われる場合、2台、3台と直列して出力を高めて使われる場合があります。乾燥効率は、高周波発振器の実行出力の概ね70%となり、時間当たりの蒸発水分量が100Kgであれば、高周波出力は100kW程度が必要となります。


繊維の常圧連続式の高周波乾燥機の概略

綛(かせ)  チーズ

繊維の高周波連続乾燥機は、従来の熱風乾燥機に比較して、乾燥速度が速い、連続乾燥のために大量処理が可能、省スペースである、乾燥効率が高く省エネルギーである、乾燥品質が高いなどの理由により、繊維工業国における大量処理用の乾燥機として今後も普及が進んでいくものと考えられます。