マイクロ波加熱の応用例
具体的応用例と装置例 食品業界 食品の殺菌・防黴・殺虫(ブドウ球菌、串団子、そば粉)

食品業界

(1) 食品の殺菌・防黴・殺虫(前ページより続く)

図19.3.2 マイクロ波加熱によるS.aureusの死滅度合い

① ブドウ球菌の殺菌

食中毒菌であるブドウ球菌(Staphylococcus aureus )のマイクロ波加熱による殺菌効果を図19.3.2 に示している。これはシャーレにマンニット食塩培地を一定量流し込み、1g当り106 個オーダのブドウ球菌を接種し、マイクロ波加熱したもので、加熱後の温度45~47℃及び63~67℃の検体を比較したものである。その結果、マイクロ波加熱後の温度が65℃であれば菌数106 個オーダ/gであっても、殆ど殺菌することが可能である。又、同じように104 個オーダ/gのブドウ球菌を御飯に接種しマイクロ波加熱を行ない効果を確認したが、前記とほぼ同様な殺菌結果が得られることが判る。

尚、ブドウ球菌から生成される毒素であるエンテロトキシンは70℃前後の熱では分解されない。従って、実際の食品においてはエンテロトキシンが生成される前にブドウ球菌を殺菌することが重要である。




出典 鈴木実・阿部重春・宮川孝夫・山口聡:
マイクロ波を利用した食品製造技術の開発と実用化,日本食品保蔵科学会誌,25(6),327-337 (1999)



図19.3.3 櫛団子のマイクロ波防黴効果

② 串団子の殺菌・防黴

和菓子類の生・半生菓子などの比較的水分の多い菓子は、保存中に一般生菌の増殖、カビの発生或いは大腸菌群の汚染による腐敗の恐れが考えられるが、これを防止するための手段としてマイクロ波加熱処理は非常に有効である。ここでは「朝生類の串団子の殺菌効果」について記述する。串団子は販売当日の朝方作られ、その日の夕方迄に或いは翌日中には販売し終わらなければならない、非常に日持ちの短い業者泣かせの和菓子類と言える。串団子の汚染は、カビ(Aspergillus,Penicillium など)、Bacillus、大腸菌群などがある。

発泡スチロールのトレイにラップ包装された串団子6ケース(重量約2kg)を、出力3.2kWのマイクロ波加熱装置で2分間照射したものを(串団子の到達温度65℃程度)、温度30℃、湿度90%(RH)で5日間保存した場合の串団子の写真が図19.3.3 である。未処理の串団子は2日間の日持ちに対して、マイクロ波加熱処理したものは4~5日間の日持ちがあることを示している。

表19.3.1 は串団子をマイクロ波加熱処理した直後の微生物評価試験結果を示し、図19.3.4 に串団子以外の和・洋菓子などのマイクロ波加熱処理したものと、処理しないものの日持ちの違いを示している。

各種菓子類の日持ちが未処理のものに対してマイクロ波加熱したものの方が2~4倍程度長くなることが判る。これらの加熱処理には発振出力数kWのバッチ式マイクロ波加熱装置と数kW~十数kWのコンベヤ形マイクロ波加熱装置が多用されている。

表19.3.1 串団子の微生物評価試験結果

図19.3.4 各種菓子類の日持ち比較

出典 鈴木実・阿部重春・宮川孝夫・山口聡:
マイクロ波を利用した食品製造技術の開発と実用化,日本食品保蔵科学会誌,25(6),327-337 (1999)



③ そば粉の減菌・殺菌処理

食品の粉末(そば粉・小麦粉・漢方薬など)をマイクロ波加熱・温度上昇させることにより殺菌・減菌することが可能である。そば粉は雑菌の付着が多いものだが、殺菌例ではマイクロ波加熱し発生した蒸発水分を篭らした状態で所定時間保持すると、生菌数106~107個/gのものが2桁/g程度に減菌することが確認されている。

尚、含水率が低い食品の殺菌・減菌処理は意外と困難である。これは例えば、同じ温度でも湿度の高い雰囲気と湿度の低い雰囲気のサウナがあった場合、人間も前者はとても耐えられないが(熱容量が大きいので)、後者は耐えられることもあり、生菌の場合も同様では…?と考えられる。