マイクロ波加熱の応用例
食品の常圧連続乾燥 1. 固体食品の乾燥

マイクロ波による誘電加熱の利用は、1940年の後半に世界で初めて米国のレーセオン社が行ったが、最初の加熱対象は食品だったと言われています。工業的なマイクロ波利用において、最も利用用途が多いのが、食品分野です。食品は、水分を多く含むためマイクロ波加熱に適しており、古くより調理、解凍、乾燥、発泡・膨化、殺菌、防ばいなど多岐に亘って利用されています ※1。

固体食品の乾燥

一般的に食品の多くは、大量の水分を含んでおり、これらの水分を除き保存性を高めるために乾燥操作が行われます。乾燥は、水分を含む固体に熱を与えて、水分を蒸発させる単純な操作ですが、乾燥の方法によっては、酸化、硬化、変質などの品質低下が起こるため、適切な乾燥法と乾燥条件の選択が重要です。干物のように天日干しなどの自然乾燥も用いられますが、工業用の生産においては人工乾燥が使われます。

人工乾燥は、利用される熱媒体の種類や熱の供給方法により様々な乾燥法に分類されます。熱風を対流伝熱で供給する対流伝熱乾燥、加熱板と接触させる伝導乾燥、赤外線などによる放射乾燥、加熱蒸気乾燥、高周波やマイクロ波による誘電乾燥などがあります。

また、環境の圧力条件より、常圧乾燥、減圧(真空)乾燥、加圧乾燥に大別されます。誘電加熱は、減圧下でも加熱することができるため、常圧式と減圧式のどちらでも利用されます。周波数は、高周波では13.56MHz、27.12MHz、40.68MHzが、マイクロ波では2450MHz、915MHzが主に使われています。ここではマイクロ波を使った常圧式の連続乾燥について紹介します。

マイクロ波による乾燥

固体食品を熱風乾燥した場合、乾燥の初期においては固体食品の表面は、内部からの水分の移動拡散が十分なため、常に水で濡れています。乾燥速度は速く一定です(恒率乾燥期間)。乾燥中期になり、水分の移動拡散が蒸発速度に追いつけなくなると、表面が乾いて乾燥速度が落ちます(減率乾燥期間)。乾燥後期になるともはや表面の水分の移動拡散はなくなり、蒸発が固体内部で起こるようになり、乾燥速度は急激に減少します。乾燥速度を高めるためには、できる限り高温で低湿度の空気を用いるしかありませんが、品質低下を起こしやすくなります ※2。

これに対してマイクロ波乾燥は、食品そのものを外層と内層の温度差少なく加熱できます。また、中心部の水分を気化させることが可能なため、圧力差により水分の移動拡散が起こり、内部の水分を表面へ押し出すことで乾燥の迅速化が図れます。特に容量、サイズの大きな固体食品の乾燥時間の短縮には、マイクロ波加熱の利用は非常に効果的です。水の気化に要する気化熱(潜熱)は、非常に大きなエネルギーを要するので、全てをマイクロ波加熱で賄おうとすると、マイクロ波出力が大きくなり乾燥エネルギーコストが高くなり過ぎます。気化熱は、外部から与える熱風から供給することが得策です ※3。

そこで通常は、乾燥条件に合わせて温度と湿度コントロールされた熱風を併用しながら、マイクロ波加熱乾燥を行います。マイクロ波出力は、水分量や表面への水分の拡散速度に合わせて制御されます。マイクロ波出力を適切に制御しないと過加熱となり易く、変色、焦げ、発火などが起こります。

固体食品のマイクロ波による乾燥の特徴は、次のようにまとめられます。

  1. 伝導加熱などによる従来乾燥法に比べて乾燥速度が非常に速い。
  2. 乾燥後期においても乾燥速度を落とすことなく乾燥できる。
  3. 内外層の含水率差を少なく均一な乾燥ができる。
  4. 平行含水率以下の低含水率まで乾燥できる。
  5. 乾燥状態に合わせて適切に出力制御しないと過加熱となり易い。
  6. マイクロ波だけで乾燥させるとエネルギーコストが高くなる。
  7. 熱風などを併用することで省エネルギー乾燥ができる。
  8. 乾燥に要するスペースが少ない。

マイクロ波乾燥装置の概要

マイクロ波乾燥に使われる乾燥炉は、ほとんどがマルチモードとなる箱型オーブンです。箱型オーブンの代表的なものは電子レンジですが、工業用の乾燥装置では箱型オーブンにベルトコンベヤを組み込んだ図5-1のような連続式のトンネル型オーブンが使われることが多いです。

図5-1/連続式のトンネル型オーブン

油揚げの着味後の乾燥、即席食品の麺・具などの乾燥や膨化処理、和・洋菓子の乾燥や防ばい処理、パン粉用パン生地の乾燥、せんべい・おかきなどの乾燥や発泡、農産物の乾燥など、利用範囲は広いです。

オーブンは、1室構造のものもあるが、乾燥の進行具合に合わせてマイクロ波出力条件、温湿度条件などを変えるため仕切りを設け、第1室、第2室など複数のオーブン構造をもつものもあります。装置には、空気循環のファンがつけられることが多いです。熱風で加熱エネルギーを供給するとともに蒸気をオーブン外に取り出すことで乾燥を促進させます。

搬送用のコンベアベルトは、耐熱性やサニタリー性に優れ、誘電損が少ないガラスクロスにフッ素樹脂を含浸させたメッシュタイプが主に使われます。オーブンの前後には、マイクロ波の漏洩を押さえるためのマイクロ波吸収ゾーンが取り付けられています。電波吸収ゾーンは、λ/4チョーク構造やフィライトや炭素粉などを主体としたマイクロ波吸収体、またそれらの組み合わせが利用されます。

被乾燥物が大型で開口部高さが大きい場合は、通常の電波吸収ゾーンでは漏洩を基準内に抑えることができないので、2重の金属シャッターを設けてどちらか一方のシャッターが必ず閉じているように2つのシャッターをサイクリックに開閉させるダブルシャッター方式が使われることもあります。電波漏洩の抑制は、2450MHzの場合は、ISM周波数であるため人体防護指針を守るようにすればよいので比較的簡便に行うことができます。915MHzは、日本ではISM周波数として工業用使用が認められていないので、無線設備規則65条の適用となり、非常に厳しい漏洩基準をクリアしなければなりません。